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ハフト・スィーン
2006年 03月 28日 |
 ノウルーズのハフト・スィーンについて、何人かの方からご質問をいただきました。
 しかしながら、私自身、昨年おおざっぱに説明はしたとはいえ、分かっているような分かっていないような部分もあって、どうしたものかと困ってしまいました。そこでちょうど家にあった、イランで出版されたノウルーズに関する概説書から、ノウルーズのハフト・スィーンのソフレについて書かれた部分を翻訳してみました。



 年が明ける時にノウルーズのハーン(=お盆 ※1)あるいはソフレ(=食布 ※2)を広げることと、七種類の色々な食べ物を選んでソフレに並べることは、ノウルーズの特別な慣習の一つである。
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   これは↑お盆に入ったハフト・スィーン

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   こちら↑はソフレの上に置かれたハフト・スィーン


 ダメシュキーはサーサーン朝時代(A.D.262-651年)のノウルーズの慣習について次のように書いている。
「ノウルーズの夜明けに、一人が銀のお盆を持って王のノウルーズの宴の場へと入って行った。その盆には、小麦、大麦、空豆、やはずえんどう(別名カラスノエンドウ)、ゴマ、米をそれぞれ七房あるいは七粒、そしてまた砂糖のかけら、金貨、銀貨が置かれていた。そしてそれを王の御前に置いていたのである。」


 今日、ノウルーズのソフレの上に置かれる七種の食べ物は、イラン各地の社会、文化、地理的な情況によって異なっている。新しい年を迎えるに当たって、イランの多くの地域では、「ハフト・スィーン(=七つのスィーン ※3)のソフレ」が広げられ、スィーンを頭文字に持つ七種類の食べ物~スィーブ( سیب sib=りんご)、センジェド( سینجد senjed=ななかまど)、サマヌー( سمنو samanu=麦焦がしのようなお菓子)、セルケ( سرکه serke=酢)、ソマーグ( سماق somaq=スーマックあるいはソマックの実の粉末)、ソンボル( سنبل sonbol=小麦の穂あるいはヒヤシンス)、スィール( سیر sir=にんにく)、スィヤーフダーネ( سیاه دانه siyah-dane=くろたねそう)など~がその上に並べられる。
 ファールス州やホラーサーン地方の村の一部では、「ハフト・ミーム(=七つのミーム ※4)のソフレ」あるいは「ハフト・シーン(=七つのシーン ※5)のソフレ」が広げられる。


 一部では、「スィーン」は「スィーニー(=お盆 ※6)」という単語の省略形であると考えられ、次のように述べられている。
「古い時代、大地から獲れる新鮮な、あるいは乾燥させた食べ物を七つのスィーニーあるいは七つの銅の大盆の上に並べ、ノウルーズに王の御前に持っていった。この食べ物の一つ一つはイランの大地から収穫されたものであった。」


 また次のようにも言われている。
「ゾロアスター教における七大天使(便宜上こう訳しておく ※7)であるアムシャスパンダが、ファルヴァルデガーン(エスファンド月の26日からファルヴァルディーン月の5日まで ※8)に天界から降りてきて、人々はアムシャスパンダたちのため、地上のごちそうの七つの盆を用意した。」
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   ゾロアスター教徒の集会の様子


 明らかに、ノウルーズにソフレを広げ、七種類の食べ物をその上に並べることは古い慣習の名残であり、七という数も、ゾロアスター教の七体の天使の比喩である。イランのゾロアスター教徒はノウルーズの盆を三つのスィーニーで~それぞれに七種類のお菓子、新鮮な果物、乾果が乗せてある~によって、七体のアムシャスパンダのしるしに飾り付けていた。そして、アムシャスパンダたちはファルヴァルデガーンになると天界から地上へと降り、ノウルーズのハーンの傍らに人々と共に座ると信じている。
 ノウルーズのソフレの上には七種類の食べ物の他に、鏡、チューリップ、ろうそく、コーラン(ムスリムのソフレの場合)、アヴェスター(ゾロアスター教徒のソフレの場合)、水を満たした鉢~緑の葉、柘植、だいだいが入れてある~、金魚の入った鉢、水仙とヒヤシンス、色を塗り、絵を描いた卵、サンギャクあるいはタフトゥーン、サブズィー・ポロウのクークー(イラン風オムレツ)と魚のフライ添え、銀貨~一般的にはサーヘベ・ザマーン(12代目イマーム・マフディーのこと)の硬貨~色のついたエスファンド(ヘンルーダ)、牛乳、ヨーグルト、バター、サブズィー・ホルダン(ハーブのサラダ)、お菓子が置かれる。これら一つ一つがイランの文化においては象徴的な意味合いを持っている。
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 ハフト・スィーンのソフレに置くためのヒヤシンスやチューリップ

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 バーザールで売られているハフト・スィーンのセットなど

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 サマヌーを売るおじさん


 ノウルーズのソフレは、家族が集まり、その周りを囲んで座ることに大変に大きな役割と重要性がある。
 イラン人はたとえどこにいようと、年が変わる前に家に帰り、両親をはじめとする家族と一緒にノウルーズのソフレを囲もうと努力する。人々は、もし年が変わるときに家にいて、ソフレを囲むことができなかったなら、その人はその年の終わりまで家や家族から遠く離れ、さすらうことになるだろうと考えている。
 全体的に、ノウルーズのソフレは、家族のつながりを作り出すことに大きな役割を演じているのである。



※1 ハーンというのは大きなお盆のこと。これ↓。
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※2 ソフレとは、食事の時に広げる布のこと。現在はビニール製が多い。イランではもともと、床に座る生活であり、食事の時には床に布を広げ、そこに食事を並べ、食事を取っていた。この時に広げられる布がソフレ。これ↓。絨毯の上に広げられているもの。
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※3 ペルシア語アルファベットの第15番目の文字。س 音価はS
※4 ペルシア語アルファベットの第28番目の文字。م 音価はM
※5 ペルシア語アルファベットの第16番目の文字。ش 音価はSH
※6 普通に使うサイズのお盆。
※7 「不滅の聖性」とも訳される。スプンタマンユ(聖なる霊)は神アフラマズダによる世界創造と大きな関連を持ち、創造を概念化したもの。ウォフマナフ(善思)はアフラマズダの言葉を人々に伝え、人々の行為の善悪を記録する。アシャ(天則あるいは正義)は行為の善悪に基づく来世での応報を象徴する。アールマティ(敬虔)は女性であり、教えへの経験や献身を意味した。クシャスラ(王国)はアフラマズダの統治力を概念化したものである。ハルワタート(完全)とアムルタート(不滅)は女性であり、相互に密接な関係を持ち、アフラマズダの完全なる王国の永遠性を意味した。
※8 ファルヴァルデガーンについては説明が複雑になるので、また場を改めて、イランで使われている暦の説明と一緒に説明する。ここでは、この期間であるとだけ理解しておいて欲しい。エスファンド月とファルヴァルディーン月についてはこちらを参照のこと。




 とのことですが、おわかりいただけましたでしょうか?

 まあ、要するに、イスラームがイランに入ってくる以前からの古い習慣であることは間違いないし、ゾロアスター教と密接な関わりを持っていた慣習であることも間違いないのだけども、どうして「スィーン(S)」なのかはよく分からない、ということのようです。

 ゾロアスター教の思想やカレンダーなどの説明もするととんでもなく長くなってしまうので、今回は割愛しました。今度また機会を見つけて詳しく説明できたらと思います。
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by sarasayajp | 2006-03-28 12:46 | いろいろ |
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