イランという国で
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遭難
2010年 10月 03日 |
 夏休み中は日本にいたのですが、あまりの暑さに家に引きこもり、机に向かう毎日でした。運動不足もいいところで、夏やせどころか太ったに違いありません。

 それはともかく、イランに戻り、大学での授業の傍らで行っている調査に出かけました。

 ギーラーン州の山の中で、夏休み前に地元の人たちに「まだ雪解け水で道が固まっていないから、夏にならないと行くのは無理だよ」と言われていた聖者廟を訪れることに。
 もう道も固まっているから大丈夫だろうと思ったのですが、なんと、「車じゃ無理だよ。歩いていかないと」とのこと。どのくらいかかるのか聞いてみたところ、「自分たちなら15分もあれば着くけど、あんたじゃ30分以上だね」とのお言葉。
 30分くらいなら何とかなるだろうと歩き始めましたが、道らしい道はありません。獣道のような草を踏んだ跡は幾筋もあるのですが、どれが正しい道なのか全く分からなくて途方に暮れてしまいました。さて、どうしたものか、と考えていると、何とも運の良いことに、バイクの青年が通りかかりました。とりあえず分かりやすいところまで連れて行ってあげるよと言ってくれた言葉に甘え、バイクの後ろに乗せてもらいました。
 「ここから先はこの一本道を行けばいいだけだから。ほら、あそこに見えるだろう」と青年が示す先には確かに建物らしきものが見えます。
 さてここからは歩きだ、と、カメラなどの入った重いバッグを抱えて歩き出しました。青々とした草原と、背の低い木の森と、羊たちの群れがもくもくと草を食べながら移動していく様子に、なんだかのびのびとした気分でした。
 と、ばうばう、という吠え声が斜面の上から聞こえてきます。
 羊の群れがいるのだから当然番犬もいるのにうっかりしていたのです。
 気がつくと10頭以上の大きな犬に囲まれています。しまった。買収用のパンは持っていないぞ、とか、狂犬病の予防接種はしていないんだよなあと、ちょっとピントのずれた心配をしながら「誰か〜〜〜いませんか〜〜〜チューパーン(牧童)はいませんか〜〜〜」と叫んでいると、おじいさんが杖を突きながら歩いてきます。犬たちはとりあえず、おじいさんの叱咤に静かになり、こちらとしては一安心です。
 「何しに来たんだね」というので、「そこの聖者廟にお参りに」と言うと、一緒に来なさいとのこと。
 「パンは持ってきたかね」
 「は?」(やはり犬の買収用にパンを持って歩くのがこのあたりのスタンダードなのか?それともお参りの時にパンを置いてくるのがこのあたりの流儀なのか?)
 「パンだよ。パン。持っていないのか?」
 「すいません。持ってません」
 と言うと、ごそごそとベストの下からパンの入った袋を取り出し、差し出します。ありがとうとひとかけらむしると、もっと取りなさいとのこと。いや、朝ご飯は食べてきたし、大丈夫です、などと言っていると、谷に降りる小道にさしかかっています。ここをまっすぐ行けば着くから、というおじいさんと別れ、再び一人でてくてく(というほど軽快ではなかったはず)と進むと、確かに到着です。
 写真を撮ったり計測をしたりと、簡単な調査を終え、帰路に就きました。
 来た道を戻っているつもりが、なんとなく周囲の光景が違います。誰かに聞こうにも、羊の群れすら周囲にはいません。
 方角は間違えていないはずなんだけどなあと斜面を登るのですが、ここで夏の運動不足がこたえてきます。息は上がるし汗はひどいしで、休み休み歩くのですが、自分でも少し様子がおかしいことに気がつかざるを得ません。どうも貧血を起こしていたようです。
 とりあえずこれ以上は歩けないぞと、座り込み、体調が戻るのを待つのですがなかなか戻りません。うっかり水のペットボトルを車の中に置いたままにしていましたし、いつもならポケットに入っているのど飴などもありません。失敗は重なるものだなあと後悔しつつ、とりあえず叫んでみることに。
 「誰かいませんか〜〜〜」
 と、子供が斜面の下からひょっこりと顔を出しました。
 「ちょっと助けてほしいんだけど、誰か他にいない?」
 というと、誰かを呼んでいます。少し待っていると、チューパーンの青年が現れました。
 突然体調が悪くなってしまったんだけど、この荷物を持って、街道まで一緒に行ってくくれないだろうかと頼むと少年たち(最初の少年の他に三人ほどいた)に何か言い(地元の方言なのでよく分からなかった)、カメラバックを守って歩き出しました。
 最初は休み休み歩く私に合わせて歩いてくれた青年ですが、「あともう少しだから、ゆっくり来ればいい」とスピードを上げていきます。バッグを持ち逃げされないかと少々心配しながらよれよれと歩いていくと、少し先でバッグをおろし、こちらに戻ってきます。「そこにあんたの運転手が来ているから」とのこと。お礼を渡そうと思ったものの、バッグにたどり着いたときにはもう姿が見えなくなっていた青年に感謝して、運転手と合流したのでした。

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まだ調子良く歩いていたときの写真。奥に小さく見える建物が目的地。ここから10分くらいで到着。

しかし、行きはよいよい、帰りは怖い、を地でいく羽目にこの後陥ることに。


 運転手によると、「あのときはもうびっくりしたよ。あんまり遅いから、ちょうど会ったチューパーンに聞いたら、ずいぶんと前に別れたって言うし、戻ってこないし。ようやく見つけたと思ったらギャッチ(石灰)みたいな顔色になっているし」とのこと。徒歩で調査先に向かうことも多いのですが、こんなことになったのは初めてで、自分でもびっくりだったのでした。やはり、夏休み中の運動不足が祟ったのでしょうか。

 遭難する時ってこんなものなのだなあと、GPSでちゃんとルートを記録するのと、水とちょっとした食料を持って歩くのは次回から絶対に忘れないぞと決意したのでした。

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 そういえば、チューパーンの青年にお礼を渡し損ねたのですが、宿に戻って気がついたのですが、彼自身でちゃっかりと、バッグのポケットに入っていたお金を持って行っていたのでした。運転手によると、「サダカ(喜捨)だと思うべきだね。荷物を持って連れてきてもらったんだから」とのこと。まあ、たいした額ではなかったし、そんなものかな、と思うことにしたのでした。

 それにしても、目を離したのは恐らく数分だったと思うのですが、その間に見つけたのかと、ちょっとびっくりでもあります。

 
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by sarasayajp | 2010-10-03 03:38 | いろいろ |
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